そばに鴨が合うように、ニシンも絶妙に相性がいい。
特有の香りと、脂肪のクセ味で、嫌う人も多いが、好きものにとってみれば、これほどの魚は他にないほどだ。
北海でニシン御殿が出来た頃は、身欠きニシンが田圃の窒素肥料に使われたと聞かされたほどだ。
子供の頃は、安価な蛋白源として頻繁に食卓にあがった。猫も見向きもしないと言われた時代。
生ニシンのお腹には、白子や数の子がたっぷり入っていた。今や、数の子や白子がたっぷり入った新鮮な生鰊は、高級魚になった。
牧之庵では、唯一の魚メニューが半身の生干しニシン。
温かいおそばにのせて「にしんそば」。
単品では、お酒の肴にお出ししている。お好きな方は、おそばと一緒に単品でご注文される。
にしん煮はババの担当、開店以来、煮足し、継ぎ足しで鍋は真っ黒。
5年来の味だ。生鰊の薄塩焼きに、大根おろしを添えて、醤油を香りつけにちょっぴりかけて熱い打ちに、フーフーしながらがっつくと、何とも言えない香ばしさ、独特の鰊のクセ味、コリコリした数の子の歯ごたえ、白子のとろけそうな甘味。
ああたまんねー。飲んべえのたわごと。
身欠きニシンは酒の肴に絶品だ。
干したニシンはうま味が凝縮していて、身の締まり具合、特有の脂のほろ辛さが、何とも表現できない程。
嫌いな人からすると、その嫌いな要因が、好きものには、たまらない。
身欠きニシンの麹漬けもなかなかの物。
大根、人参、昆布、数の子、身欠きニシン等を麹で漬けた物だが、酒の肴には、ちょっぴり甘すぎるが、お茶請けには最高だ。
でも、面倒はいらない、身欠きニシンは、ピリピリ火に炙って、ショウガおろしに醤油を掛けて食べるのが一番だ。
簡単で、ニシンのうま味が詰まっていて、酒の肴には持ってこい。
昆布巻もなかなかだ。鰊の脂が染みこんで、鰊好きには止められない。
ご飯のおかずに、酒の肴。取り分け、お燗をした日本酒にはぴったりだ。
鰊もお燗酒もこれからの出番を待っている。
ニシンは春告げ魚、気の早い話だが、脂ののりきったニシンが食べたい。燗酒から思いを馳せて