★亡き夫の思い出を辿って
昨日のお昼の営業中のこと。閉店時間のちょっと前に、中年の女性が3名で御来店いただいたんだね。
その中のお一人が見覚えのあるお客さんだったんだが、ババはどうしても思い出せなかったそうなんだ。
お話を伺っているうちに、以前、何回もご夫婦でお越しいただいたお客さんだったんだね。
余りの痩せようで、容姿がまるで変わってしまわれたそうなんだ。
ババが「今日は旦那さんとご一緒じゃないんですか?」と、お聞きしたそうなんだね。
すると「実は、主人は去年亡くなったんです」とのこと。
その心労で痩せてしまわれたんだね。
2年くらい前のことなんだが、我が地域の駐在さんに、このお客さんの子供さんが赴任されておられて、年に何度かお孫さんの顔を見に来たり、冬は屋根の雪下ろしに来られたんだね。
新潟方面の方なんだが、旦那さんも警察官で、がっちりした大柄の、見るからに子煩悩な優しい人だったんよ。
こちらに来る度に、牧之庵にお蕎麦を食べに来ていただいていたんよ。
不治の病に犯されて、末期症状だったが手術をして、1ヶ月後に亡くなってしまわれたそうなんだ。
家族には、医師から手術をしても手遅れだから、そっとしてやった方が良いと言われそうだが、本人は、手術を受けて直りたい一心から、受諾書にサインをしたんだそうだ。
手術の甲斐なく、その1ヶ月後、寂しい話だね〜。切なくてむなしいね〜。
精神的に少しは落ち着いて、やっと出歩く気持ちになったから、お友達と一緒に、ご主人の思い出を辿って、生前に大好きだった牧之庵のそばを食べに来てくださったんだね。
定年退職後、ご夫婦でセカンドライフを楽しんで間もなくだったのに、世は、無情の悪戯をするもんだ。
ババが、珈琲を差し上げて、ゆっくり寛いでお帰りになられた。ご主人も、喜んでお蕎麦を食べていかれた事だろう。
大切なお客さんを、また一人亡くしてしまった。
間もなく、一周忌なんだそうだ。
合掌
★友の供養に
そして、その日の夜のこと。
夜の開店時間5時を少し前に、50歳代くらいのご夫婦と、そのご両親らしいご夫婦がお見えになった。
ババは、お昼に前述の3名のお客さんと、閉店後1時間も話をしていたからお使いが遅くなって、夜の営業時間までに帰ってこない。
少し早いが店を開けて、お客さんにお茶を差し上げ、ご注文をお聞きした。
お客さんの方から「私たちは、群馬から来ました。年に一度(7月4日)、清津峡に友人の弔いに来るんです。
去年もお邪魔して、定休日だったのにお蕎麦を食べさせていただきました」と、お話をされた。
ババもお使いから帰ってきて「ああ!あの時のお客さんでしたか」、我々もハッキリ憶えている。
数年前の7月4日、釣り仲間と清津峡で釣りをして、友人一人が倒れて亡くなってしまったそうだ。
以来、毎年命日に、友の供養に来ているんだそうだ。亡くなった地にも分骨してあるんだね。
今日もその帰り、去年の今日に来たが、牧之庵の定休日だったんだ。
話を聞くと、その前の年にも来たんだが、その時も休みだったらしいんだね。
折角来てくださったのに、続けて2回も食べられないなんて可愛そうだ。
そう思って、去年は急遽、窯に火を入れて食べていただいたんだよ。そして昨日も来てくださったってわけなんだ。
「来年の今日の日に、また寄せていただきます」、そうおっしゃられて、お帰りになった。
世の中には、こんな律儀な、友達思いの人もいる。生前は、余程仲良しの友達だったんだね。
遠いこの地に分骨までして、毎年家族で供養に来られるが、亡くなられた友人も、幸せだな〜。
こんな田舎のちゃちな蕎麦屋にも、お客様との様々な出合いがある。
嬉しいこと、悲しいこと、日々、新たな感動があり、ドラマが生まれる。
そこに、あったかな血が通うとき、ああ、蕎麦屋になれてよかったなあ〜。
心底思い、感謝の日々である。
一日遅れの命日に、及ばずながらの合掌。
出合いに感謝して。