朝、分家の倅(とは言っても若いジジ)が、八珍柿のサワシガキ(おいらの方では、炭酸ガスや、焼酎で渋を抜いて甘くした柿のことを言う)を持ってきてくれた。
暫くして今度は、お隣の親爺が八珍柿のもぎたてを持ってきてくれた。
ババが、暇な牧之庵の合間の時間を利用して、皮を剥いて糸で括った。
はてさて、何処にぶら下げようっぺかな?
夜の開店間際になって、親爺は縁側に雪囲いの支柱を立てた。
支柱に横棒を這わせて、そこに吊す魂胆らしい。
毎年此所には、沢庵用の大根を干す場所だが、ちょっと時期が早いが、事は序でと、暗くなっての俄仕事。
ちょっと昔は何処の軒先にも、ごく当たり前に見られた光景、今や懐かしい風物詩。
正直言って、完璧に干しあげても、はたして食べるかどうかは定かでないが(おそらく孫等は見向きもしないだろう)、おいら属には懐かしい光景だ。
そんな現実が背景にあって、我が家は柿の木が無いんだよ。
子供の頃は3本もあったが、需要に合わせて徐に切り倒して以来、植樹する気すら思い付かない。
他人様からゴチぶりに少し頂いたり、食べたいときにちょっとだけ買ってきて、その時々の旬を少しずつ楽しむ事で用をなす。
一年中、何でも有りのご時世だから、ごっそり、タップリは廃れてしまったね。
人間って奴は、実に勝手で我が儘な生き物で、全くなくなると欲しがって無い物ねだりするもんだ。
野菜もそう、果物も然りで、それまで畑や屋敷周りに山ほどあった時は、喰い飽きて見向きもしないが、いざ全く姿を消すと、季節外れの高いもんを求めるんじゃで。
でもね、その飽食時代は、もうこの辺らで潮時かもね?。そんな贅沢、言ってられなくなったよ。
春先に襲った大震災、予想もしなかった原発事故、放射性物質の汚染からの不安と恐怖。
米や野菜、肉が魚も・・・・・も、モニタリングがどうたらこうたら、水が土壌が何々ベクレル。
地球上のあちこちで、記録的な豪雨水害、未曾有の大雪、ハリケーン等々、おかしな事が次々起こる。
70億人を超えた地球人口、心配される食料危機。
昔に返って干し柿も見直されるかもよ。