(写真左)こんな状態で80度前後、沸騰寸前でブラックホールが現れる。醤油、砂糖、味醂のアクで寸胴表面は黄褐色になる。
沸騰寸前に火を止めて、アクを取り除いて冷水に浸して冷まし、容器に移して最低1ヶ月(長くて1年)は冷暗所で寝かせて、使える「かえし」の出来上がりだ。
先日のこと。
牧之庵の開業当初からのご常連さんから、「牧之庵ではそば汁の味を変えたの?」と聞かれた。
「やっぱりさすがに!」と思わされた問い掛けだった。
正直のところ、開業以来から変わらず取引していた問屋さんが、この地域の営業所を閉めてしまったんだね。
大概の材料は、ここから仕入れていたから一時は戸惑ったよ。
やむなく、もう一カ所の取引先にシフトを移したんだけど、「かえし」のメーン材料の醤油が今まで牧之庵で使っていたメーカー品とは異なっていたんだね。
この問屋さんは、元々が醤油の醸造所(地元では昔ながらの有名な醤油メーカー)だから、まさか其所に別メーカーの醤油を取り寄せして貰うのも失礼な話なんで、実はいろいろ考えたんだ。醤油だけは、別途に他の問屋から仕入れようかとね。
思案していたらババがね「お父さん、あそこの醤油は美味しいよ。地元では昔から有名な味よ」って言うもんだから、よしそんなら試作してみるか、ってことになってね。
試しに一斗缶だけ取り寄せて「かえし」を作ってみたんだよ。
結果、これがまた自分にも気に入ったもんだから、全面的に乗り換えたって訳よ。
それを即座に見抜くなんぞは、さすがに通の舌を持ってなさる。
話はまた横道にズレそうだが「かえし」については、過去にも何回か触れてきたので、作り方は省略するけど、障りだけ・・・ちょびっとね。
その昔から(いつからなんか知らないが)多くの蕎麦屋は「そばつゆ」を作るのに、前もって醤油と砂糖を加えて煮て作った「かえし」なる物を作っておいたんだね。
これをある期間寝かせて、カツオ節などから取った「だし」と合わせて「そばつゆ」を作るんだ。
この「かえし」って奴なんだが、前にも触れた様に、様々な日本料理に合うんだね。
そう、料亭の味の秘伝なんだ。だから一般家庭でも、ちょっと作っておくと重宝するよ。
メーンの「そばつゆ」の他に、天つゆ、天丼やカツ丼などのどんぶり物のつゆ、鰻のタレ、各種照り焼き、煮物、鍋物、おでんの煮汁等々、その用途は応用次第で多岐にわたる。