もうずっと、ずっと前のことだった。ある冬も終わり近く、春先のこと。勤め先に、ある温泉宿の主人から電話が入った。何でも、ビートたけしが映画のロケに来るという。協力してもらいたいので至急宿の方に来て欲しい由。用件は、セットの協力らしい。大体の内容を聞いてから、後日に制作スタッフ3名が会社に僕を訪ねてきた。名刺には「北野組 制作主任〇〇、制作担当〇〇、美術〇〇」北野組スタッフルーム・株式会社オフェス北野、とあった。用件は、このたび、ある温泉宿を舞台に北野武が来て、真冬の設定でご当地にロケに来ることになった。ストーリーはこれこれ、時期は北野武が多忙なので、スケジュール調整がついたときになるので、大体の時期が決まり次第に連絡するので、セットのお手伝いをお願いしたい旨。宿屋前でのシーン、山道でのシーンを撮りたいので、場所を探して、次回来るときに案内を頼みたいとのことだった。概ねの作業内容を説明してもらい了解して別れた。待てど暮らせど、連絡は来ない。この年は暖冬で、雪消えは例年より早く、時期も冬は過ぎ、春近しを感じる頃になってのある日、連絡が入った。スタッフの指示の下、急ピッチで深夜まで作業が続いた。二軒の宿の前に真冬を演出、あらかじめ探し求めた雪取り場所から、大型ダンプで雪の搬入、重機、作業員を動員してのセット作り。三.四日は掛かったかと思う。明日、撮影という前夜は奇しくも大雨。撮影に使うボロベンツが置かれた。辛うじて宿前のシーンは撮りあげた。さて、翌日は山道での撮影。場所は「栃窪」という山村はずれの、冬場は通行止め(除雪しない)の県道。別部隊が道路を除雪しておいた。ヤクザから逃れて、宿に向かう途中のシーンだったと思ったが、たった数分のシーンを丸1日掛けての撮影。何でも、女房役の岸本加世子が野良ションをするシーンを撮るんだとか。このときは、「HANA−BI」という題名も、ベネチア国際映画祭に出品するということも、無論、知るよしもない。それから随分と時間が経ったある日、テレビ報道でグランプリを受賞した事を知った。制作主任からお礼の伝言とポスターをいただいた。写真はそのときのポスターです。撮影って本当に大変な作業なんだなあ、特に、スタッフの苦労は予想を遙かに超えた過酷な仕事。美術担当のスタッフが言っていたことがわすれられない「兎に角、大変なんです。仕事も、金も、〇〇も」本音だったんだろうね。彼は・・・・・・・・・。ロケの宿とは、大沢山温泉の、とあるお宿。今は繁盛して半年以上も前に予約しないと取れないらしい。花火で無くてホンマモンになった。