先日、病気療養中で暫く顔を見せないお客さんの事をご紹介した。山椒の実が抗ガン剤の副作用で起こる吐き気に効くと言うことで、ご夫婦で採りに来られた。カラーの鉢植えを持ってきてくださった。長引く療養生活で管理が行き届かなくなったとの事だった。牧之庵には、それが最後で、あれから2年が過ぎていた。ある日、ババがお使いの出先で奥さんとお会いした。こんな事は聞いてはいけないことだと感じたが、どうしても気になって「暫く旦那さんのお顔を拝見してないんですが、お変わりありませんか?」奥さんは涙を浮かべて「主人は9月3日に亡くなり、今年で3回忌です」と、お答えになられたそうです。ご主人は牧之庵にいらっしゃると店が忙しくない時は、お席に僕を呼ぶんです。胃ガンで胃を全部切り取ってしまったから、飲み食いも時間が掛かるし、量も限られていました。それでも、そばと、お酒が好きで何回もお越し頂きました。スキーには特別の思いがあるようで何度かお話を賜りました。癌治療で赤外線か何かの療法で通院した後は、何度か牧之庵に来られました。その時は、かなりの疲労と副作用があるらしく、それでも蕎麦が食べたいらしく、いらしゃったんです。頂いたカラーの花、1年目は元気に花開き、大切にしなくてはと丹誠に育てました。ところが2年目になって元気が無くなったんです。元来、丈夫な植物なのに?今になって、こんな事を表に出してはいけないことなんでしょうが、その時は何となく不吉な予感が脳裏を走りました。これでまた、牧之庵の蕎麦を好んで頂いた大切なお客さんが、僕の知る限りでは3人あの世に行ってしまわれた。生あるもの何れは、おさらばの宿命にあるにしても、人生の最期まで苦しい躰を牧之庵まで運んで頂いた事を考えると、やるせない思いだ。衷心より感謝申し上げ、ご冥福をお祈り申し上げたい。せめて、お盆やお彼岸に好物のおそばをお供えして、ご一緒にご賞味頂こうと、心に深く念じた牧之庵の親爺でした。
合掌