夕方、牧之庵に中学校の同級生が夕食を食べに来てくれた。中学生時代からの親友で、中学校卒業後、集団就職で上京した。働きながら定時制高校に通い、当時の経済成長を支えた典型的な団塊族だ。不治の病に犯されて、そんなに長くは生きられないことを覚悟で一緒になった奥さんはもういない。中学を卒業後、暫くは彼と手紙のやり取りをしていたので当時の経緯は詳細に覚えている。幸いにも予想以上に奥さんは長生を授かり、彼との幸せな人生を全うした。彼はその後も再婚せず生地に帰ってきて、数年か前に隣村に小さな自宅を構えた。現在は少しの日銭を稼ぎながら、生家近の畑を借りて菜園を趣味にして悠々自適の生活を送っている。生き様と人生の価値観は人それぞれだが、少なくとも彼の中には、彼にしか分からない達成感があるように感じられる。他人から見ると、どう見ても幸せの人生ではないなあ〜と、受け取りがちだが、彼は彼なりの人生を的確に捉えて生きてきたし、現在も悠々と生きている。
彼がそばを食べている間、僕も焼酎のそば湯割りで付き合った。彼はアルコールが全く駄目な奴なのだ。
同窓会の話になった。「同窓会の出欠の返信はがきを出したかい?」言われて忘れていたことに気が付いた。忘れていたと言うより、何とかして出たかったので返信するのを躊躇していた。
実のところ、ババの高校の同級会と一緒の日に重なっていたのだ。ババの方は案内が早かったから出席の返信を出していたのだ。牧之庵を臨時休業にしようか?とも考えたが、これまた娑婆はそう上手くは回ってはくれないもんだ!そんな日に限って大口の予約が入って来た。出たいが出られない、躊躇してもどうなるわけでもないんだが都合の悪い事は後回しの自分が居た。ババの案内は、僕のより数ヶ月も早く来たので出席を強く促した手前、僕の案内は、ババには知らせずにおいた。
彼に促されて「欠席」の返信はがきを先程書いて投函した。
思えば、前回の同窓会も牧之庵の開店間もなくだったので断念した。そして、今回の大事な節目の還暦同窓会も欠席だ。
好きで始めたこの仕事だが、こういう事態になると些か恨めしい。選りに選ってババと一緒の日になるとは・・・・・・・・