牧之庵から閉店の御挨拶 御案内の通り、牧之庵は「令和元年(2019年)8月15日」をもちまして完全閉店となりました。      お客様に支えられて17年間、誠に残念では御座いましたが暖簾を下ろすことになりました。 これまでに賜りましたご厚情を心より感謝申し上げ、謹んで御礼の御挨拶を申し上げます。本当にお世話になりました。幸か不幸か、牧之庵の閉店の翌年から新型コロナが現われ、5類に移行したとは言え未だ終息の気配がありません。そんな中で、ロシアによるウクライナへの侵攻、パラリンピックが始まったばかりの日本だったのに、未だ終わりが見えません。どうなってしまうんだろう? 強権的独裁者の出現は国連の機能不全を生じ、中東でも戦禍を被り続ける。不安だね~怖いよね~.   そんな不安定な情勢の中で、新年度は世情安定を祈りつつ迎えたかったが、正月早々から能登の大地震。別件、近況は自民党の裏金、派閥問題で大騒動。兎に角、能登だけは、何があっても最優先、一時のロスタイムは許されないぞ! 先ずもって、この度の「能登半島地震」に遭われた能登の皆様に心よりお見舞いを申し上げます。       お亡くなりになられました多くの御霊に謹んでご冥福をお祈り申し上げます-合掌ー   トップ画像を替えました。これは、我が家の裏の畑でトウモロコシ(2回目)の種蒔きをする孫. 題して「ジジとトウモロコシの種をまく孫(小学2年生)」2022.5.29の写真をつかいました。

*蕎麦と布海苔(ふのり)、自分なりの「通」

bokusian2007-10-29


越後のそばと言えば、「へぎそば」が総称する。
「へぎ」とは、主にそば等を盛り込む長方形で平べったい木製容器のことを指す。
従って、本来「へぎそば」とは、へぎに盛られたそばのことだが、越後では、本場十日町小千谷等を筆頭に 「布海苔」を使って打ったそば自体を「へぎそば」と呼ばれているようだ。
その「布海苔」なる物は、ワカメやエゴ草と同じ海藻で、産地は日本全国、北海道から九州に至る全域で採れるそうだ。
刺身のツマに千切り大根やパセリ等と共に、紅紫色で一際目立つ海藻が添えられているのを見掛ける。
蕎麦屋が繋ぎとして使用する物は、それを乾燥した物だ。
一般に「ふのり」と言えば、まず貼り付ける「糊(のり)」を想像するが、あの「布糊」も同じ物だ。
子供の頃、古い着物を解いて、洗濯をして布糊を付けて洗濯板に貼り付けて干している光景を、我々の年代層の人には懐かしく甦ってくるであろうが、あれに使った糊は、布海苔を天日漂白して「板ふのり」した物。
我々が、昔目にした光景は、この「板ふのり」を水と共に煮て溶いた物だ。
舌切り雀に出てくる「糊」だ。
蕎麦屋で使う「布海苔」は紅紫色の藻を漂白せずに水洗いして乾燥させた物で、やはり、紅紫色をしている。
これを水に浸して塩分や砂を綺麗に濯ぎ落として、湯煎に掛けて糊状に溶かして冷ましてから冷蔵庫で保存し、適宜小出しして使用するのだ。
溶かして糊状になった布海苔は、赤見が取れて薄緑色に変わる。

そば屋で使用する乾燥した布海苔                      湯煎して溶かした状態の布海苔


昔から塩沢も織物の産地だが、越後は雪との関わりで織物が盛んだった。
取り分け、この魚沼地方は、豪雪の立地から主要産業として担ってきた。
生地の糊付けや、原糸の固定に「布糊」が活躍した。
そばに布海苔が使われるようになったのは、いつ頃、誰が何処で始めたかは、諸説あって定かでないようだが、何れにしろ、織物の産地から生まれたことは相違なさそうだ。
牧之庵にも、どこからともなく、そばに関する様々な問い合わせや、評価等が聞こえてくる。
ある人は「布海苔を使わないそばなんて、そばじゃない!」、「越後に来たら、何が何でもへぎそばを喰わなきゃ」等々、またある人は「折角のそばの香りが、布海苔のお陰で台なしだ!異様にツルツル、シコシコでそばと言うか、うどんと言うか?」双方両論相譲らない。
でもこれって、各々の好みの域だから、両者相身互いだろうね。
へぎそばが好きな人もあろうし、布海苔が嫌いだって人もいるだろう。
だからといって、そば粉三昧が「通」かといったら、そんなことも言えないんじゃなかろうか?
食域が多様化して、オリジナリテーが目を引く昨今、「こだわりだけの通」は、変わり者化してしまった。
さて、牧之庵の親爺は?商売だから「中間派」とでもしておこうか?
偶にお客さんからの問いが、「牧之庵さんは、繋ぎは何を使ってますか?」「海藻の臭いがした様だけど、もしかして布海苔?」「何割そばですか?」等々。
そんな時は決まってこうお答えする。「家の蕎麦は限りなく十割に近いですが、まあ9割くらいのそばでしょうかね。繋ぎには小麦粉と、3年以上経った古い布海苔を、水の様に薄く溶かしてそばの邪魔にならないようにしています」と。
僕が思うに、特別に動物的な嗅覚、感覚をお持ちのお客さんには、布海苔が邪魔して居るのかもね。
ただ、布海苔は熱湯に溶けやすく、香りも強まるから、そば湯を召し上がってから始めて気が付く人もあるかもね。
そば屋は、それぞれがその店の持ち味、その店(親爺)の好みで決まってくる。
好むと好まざるに関わらず、お客様の選択肢、その店の味と、お客様の感性嗜好が一致して始めて「旨い」、「好みの味」ってことになるんだろうね?
山々も色付き、そばが旨い季節、新そばが出回る時期だ。
今は亡き、杉浦日向子女史が綴っていた「もっとソバ屋で憩う(新潮文庫)」の一節。
「グルメ本ではありません。おとなの憩いを提案する本です。ソバ好きの、チョイとばかり生意気なこどもは、いますぐ、この本を閉じなさい。十年早い世界ってものがあるんですよ。・・・・・・・略」
「もっとソバ屋で憩う」、ソバ屋にとっては、いい響きだ!自分なりの「通」でありたい。