牧之庵の囲炉裏の火棚や回りには、いろんな物が上げてあったり、ぶら下がっています。
左から「車麩(くるまふ)」「ニンニク」「ワラスッペ」「ハッチンボウ(八珍坊主)」「ひょうたん」「鮭の干物・酒浸し」
等々
中央上部が「カンジキ」といって、雪の上を歩くときに抜からない様に靴の下につける用具です。随分と煙で煤けて黒ずんでいますが、囲炉裏で薪を燃やした煙でススを浴びたものです。縄も強固なものになって長持ちします。
火棚の右端にぶら下がっている物は「ハッチンボウ(八珍坊主)、コモ槌」といって、俵編みに使った小道具です。
幾つかご紹介してみましょうか。
☆車麩(くるまふ)
江戸時代の頃から、車麩は越後で作り続けてきた名産品の一つです。車のような形から名付けられた物でしょうね?ドーナツ状で真ん中に3㎝ほどの穴があいています。大きさは地方によって異なりますが、この辺では直径10㎝ほどの大きな麩です。昔は動物性蛋白が手に入り難かったので、重宝な蛋白源だったんですね。
小麦粉グルテンに小麦粉を加えて焼いた物です。越後の車麩は三回巻、四回巻とあるんです。2メートルもある丸棒に生地を巻いて焼き、また巻いて焼き重ねます。その巻回数で「何回巻車麩」というんです。切り口がバームクーヘンの様で年輪状になっています。子供の頃は、おやつとして生でバリバリと食べたものです。乾パン同様に災害時の緊急保存食には最適かもね?
料理法は一般の麩と同様ですが、肉厚のために水やお湯に浸してもどして使います。なんと言っても、煮物ですね。ぜんまいや身欠きニシンに車麩を使った煮物は、当地方の代表的な家庭料理です。麩そのものは無味ですが、合わせ煮た材料の旨みをすべて吸い込んで肉厚の車麩は、とてもヘルシーで美味しい食べ物です。精進料理には欠かせません。
牧之庵に吊してある物は「へんど麩」と呼ばれ、製造過程に生じる両端の耳の部分の切り落としです。商品価値のない物を特別の販売ルートから入手した物です。形は不揃いですが厚みがあり、これはこれでボリューム感があって美味しいです。昔は、この様に荒縄に通して売っていました。そのまま台所に下げて必要に応じて使っていました。
今や懐かしい雪国の風物詩です。