半端じゃなく牧之庵は暇になっちゃったよ。
今日は土日かい?錯覚を憶えるほどにホントに暇なんだ。
来月15日で10周年だが、商売を初めて以来、こんな落ち込み方は初めてだよ。
これ程、未曾有の不況状態が続くと、さすがに不安になってくるね。
どうなっちゃったんだろう?ってね。
不況の所為かい? 震災の影響か? 牧之庵が不評のためか? 何々の所為かも?余計な詮索、過度な心配をする事、あれこれ。
数日前に、食材販売の業者さんが来られたんだね。
最近は、とんと材料の注文が少なくなったから、心配になって廻ってこられたんだろうよ。
「だんなさん、何か御用はありませんか?」「何にもないよ、もう店終い状態だよ」
「いや〜、廻って歩いても、なかなか上向きになりませんね。どうしたんでしょうかね」「そうだねえ〜、元々の不況だった上に、震災の追い打ちで死んじゃったんじゃないの、それにほら、政(まつりごと)があの為体(ていたらく)、日本が潰れそうだってのに奴らは、てめいらの事ばっかり、当たり前じゃない」
「潰れちゃいますよ、うちの会社が」「しったこっちゃねよ、ひとのことずらねよ」
冗談交じりの会話だが、まんざら冗談だけじゃ済まされない現実。
いま、我々組合の会計を仰せ付かっているんだが、各理事の皆さんから組合費の集金をお願いしてるんだね。
納付期限を定めてあるんだが、もうとっくに過ぎてるのに、なかなか集まりが悪いんだよ。
催促の電話をして、再度のお願いをするんだが、留守の店があったり、仮閉めしたり、閉業したらしいとか、まあ、この商売は景気の動向に敏感だから、いろいろあるのよ。
困ったもんじゃね。こんな状況が長引くと、組合員も減っちゃうよ。
「壊し屋」さんよ、壊すんなら、はようぶっ壊して、よしんば、引退なさってくだされよ。あんたは壊すのも、作るのも上手だが、騙すのも化かすのも上手だない。
何のためにもなりゃせんから、ほんと、本気でお願いするすけ、早う辞めてたもれ。長い間、ご苦労様でした。そんなら、さいなら。
あんまり暇だすけ、壊れた陶器を補修したよ。
もっともこいつは、壊そうとおもって壊したんじゃないんだが、大事に使っても壊れるときは仕方ないんだね。
でもね、昔の大事な仲間、傷ついたらそっと労って、できる範囲で補修してやるんだよ。
補修の跡がいっぱいになれば、牧之庵の年季の証、仲間を大切にしてるって事なんだ。
丸いのも、四角っぽいのも、細長いのも、古いのも、新しいのも、いろんな物がみんな集まって、膳盆の中で役を担って形を作ってるんだね。
ちょ、ちょっとまって、壊さないで!補修も大変なんだから、も〜う!
今日で4皿目でしょう。悪いけど、他の店に廻ってよ(ちょっと待てよ、回したって、またそこでガチャ〜ンか)、いやそうじゃなくて、この仕事お止めになってよ。
一旦壊れた物は、どんなに上手に修復しても、原形には復せない。写真上の黒い器、ものの見事に二つに割れた。
修復したらご覧の通り、見事修復は叶ったが、よ〜く見ると真ん中部分に微かな傷口が残った。修復した物は、所詮が繕いもの、長い歳月が経ると、自然と水が漏れてくる心配があるし、誤魔化せない。
人の世も、牧之庵の仲間と同じ、見せかけに繕っても、長持ちはしない。
綻びは、やがて現れるが、それを見定める見識が今度こそ試される。
目先の甘い蜜に誘われて、また騙されるのか?もう、許されないぜ!しっかりせんかい!